「え?返ってこないってどういうことですか?」
ある日、お客様からこんなご相談をいただきました。
「地方のテレビ局から“取材協力”ということで、自社の製品を貸したんですが……半年経っても返ってこないんです」
「返却をお願いしたところ『業界では返さないのが慣習』だと言われてしまって」
実はこうした“業界の常識”が、法的には全く通用しないケースは意外と多くあります。
とくに企業と企業の間での貸し借りでは、「書面を残していないこと」自体が最大のリスクになり得ます。
こうしたトラブルを避けるために重要なのが、借用書や契約書の正しい使い分けです。
借用書と契約書は何が違う?
まずは、基本的な違いを押さえておきましょう。
借用書とは
- 借りた側が「〇〇を借りました」と一方的に記載・署名する文書
- 貸し借りの事実を証明する最低限の書面
- お金や物品の貸し借りに使われるが、詳細なルールは明記されないことが多い
- 相手の責任感を促す効果は限定的
契約書とは
- 貸主・借主の双方が合意した条件を明文化する書面
- 返還期限・破損時の責任・禁止行為なども網羅
- 法的拘束力に加えて、“心理的な抑止力”も生まれる
- トラブル時の解決手段として圧倒的に有利
民法上はどうなっている?返すのが当たり前じゃないの?
結論から言うと、借りた物は返すのが法的な原則です。
民法上は、物の貸し借りについて以下のような契約形態があります。
■使用貸借契約(民法593条)
→ 無償で物を貸す契約。
貸した側は「返して」と言えますが、返却期限が曖昧な場合はトラブルになりやすいです。

■消費貸借契約(民法587条)
→ 主にお金など、返すときに“同種・同等のもの”で返す契約。
借用書があると契約成立の証拠になります。

プレミア付きフィギュアが折られた話
実際に、以下のようなトラブルが発生しているようです。
「テレビ局から“取材協力”の依頼を受け、自社で保管していたプレミア価格のアニメフィギュアを貸しました。
使用後に返却されたものを見たら、“腕が折れていた”んです。
弁償を求めたところ、『当時の市販価格(5,000円)を支払います』と。
現在はプレミアがついて数万円〜10万円で取引されていると説明しても、
『それは御社の評価であって、当社は把握していません』と一蹴されました」
このお話 ウソか本当か?真偽は定かではありません。
ただ口頭でのやり取りしかない場合、破損時の補償や評価基準が明記されていないため、相手に法的な責任を問うことが非常に困難になると思われます。

借用書より契約書が“強い”もう一つの理由
借用書でも、最低限の証拠にはなります。
しかし、企業と企業の間の取引においてはそれだけでは足りません。
契約書の持つ最大の強みは、
“ルールを明確にすること”と、“責任を自覚させること”です。
書面を交わすことで、相手方にも
「これはちゃんと返さないといけない」
「破損や紛失があれば責任を負うことになる」
という心理的プレッシャーが生まれます。
これは単に法的効力の話だけでなく、
「契約書がある=軽く扱ってはいけない」
という意識づけの効果が非常に大きいのです。
どんな場合に契約書が必要?
以下のような要素が一つでもあるなら、契約書での対応が望ましいです。
- 高額・希少・代替不可能な物品を貸し出す
- 破損・紛失時の補償内容を決めておきたい
- 返還期限・保管方法・送料負担などを明確にしたい
- 相手が法人・団体である(責任の所在が曖昧になりがち)
- 長期の貸与や繰り返しの貸出しが想定される
行政書士ができること
行政書士やまもと事務所では、法人様向けに以下のようなサポートを提供しています:
- 借用書・貸与契約書の作成
- 契約書のチェックとブラッシュアップ
- 雛形では対応できない、個別事情に応じた文案提案
- “角が立たない表現”での柔らかい契約書作り
特に「お付き合いのある取引先だから、強い言い方はしたくない」という方には、バランスの取れた契約文書のご提案が可能です。
【まとめ】貸すときこそ、“返してもらう準備”を
相手が信頼できるからこそ、書面でルールを定めておく。
それが、信頼関係を壊さずに、あなたの会社の資産と信用を守る方法です。
貸した物が返ってこない。
返ってきても壊れていた。
そんな後悔をしないために、書面による“備え”を、今日から始めませんか?
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