インコタームズとは?契約書で注意すべき国際取引ルールをやさしく解説

契約書

海外との取引や契約書作成を進めていると、必ず出てくる用語のひとつが「インコタームズ(Incoterms)」

先日 ご相談をいただいた海外展開の案件で初めて本格的に触れる機会がありました。

「輸送費は誰が負担するの?」
「途中で事故があったら誰が責任を取るの?」
こうした疑問を整理するために作られているのがインコタームズです。

今回は、あまり専門的すぎない程度に、契約書に関係するインコタームズの基本と実務での注意点をやさしく解説します。

インコタームズとは?

インコタームズは、国際商業会議所(ICC)が定めた国際取引のルールです。
正式名称は International Commercial Terms

国や地域ごとに取引慣習が異なるなかで、

  • 費用を誰が負担するのか
  • リスクがどこで移転するのか

を明確にするための「共通言語」として使われています。

インコタームズを契約書に書いておけば、取引当事者が違う国同士でも同じ基準で話を進められるのが大きなメリットです。

インコタームズは「加盟国制」ではない

ここでよくある疑問が「ICCに加盟していない国だと使えないの?」というものです。

実はICCは国連やWTOのような条約機関ではなく、世界中の企業や団体が加入する民間組織です。
そのため「加盟国」という概念はありません。

  • 世界100か国以上にナショナル委員会(各国支部のような組織)があり、日本にも「ICC Japan(日本商工会議所)」が存在します。
  • ただし、委員会が設立されていない国もあります。

それでもインコタームズは 国や加盟の有無に関係なく、誰でも自由に利用できる国際ルール
つまり、世界中どこの国との取引でも使えるのです。

中国のような国でも使えるの?

はい、もちろん使えます。
中国は独自の法律や規制が多い国ですが、国際貿易の現場ではインコタームズが日常的に使われています。

特に FOB(本船渡し)CIF(運賃・保険料込み) は、中国の輸出入で非常によく用いられる条件です。

ただし注意点として:

  • インコタームズは「費用とリスクのルール」であり、国内法(輸入規制・通関・所有権移転など)に優先するものではない
  • そのため、中国との契約では「通関」「検収」「所有権の移転時期」などを別途契約書に明記しておく必要があります。

インコタームズ2020の概要

世界中のどこの国との取引でも利用出来るインコタームズ。
そんなインコタームズにはバージョンがあります。

最新版は インコタームズ2020
ここで定義されている代表的な条件をいくつか見てみましょう。

  • EXW(工場渡し):売主の工場で渡したら、あとは全部買主の責任。
  • FOB(本船渡し):船に積むところまで売主、その後は買主。
  • CIF(運賃・保険料込み):輸送費・保険は売主が負担するが、リスクは積込時に買主へ移る。
  • DAP(指定地持込渡し):目的地まで売主が運ぶが、輸入通関は買主。

契約書に書くときの注意点

契約書にインコタームズを盛り込む際には、次の3点を意識すると安心です。

  1. 「インコタームズ2020」と明記する
     古いバージョン(2010など)と混同しないように必須。
  2. リスク移転と所有権移転は別物
     インコタームズはリスク・費用を定めるルール。所有権が移るタイミングは契約書で別途明示する。
  3. 保険や通関を誰がするか具体的に補足
     「通関関連の書類提供は売主が補助する」など、一文を足しておくと揉めにくい。

日本企業の具体例で考える

実際に実務でインコタームズを使う場合には以下のような感じになります。

例①:中国企業に部品を輸出(FOB条件)

  • 契約書:「FOB 大阪港、Incoterms 2020」
  • 日本企業は大阪港で船に積み込むまで責任を負う。
  • そこから先の輸送費・リスクは中国企業が負担。

例②:中国から完成品を輸入(CIF条件)

  • 契約書:「CIF 東京港、Incoterms 2020」
  • 中国側が運賃・保険を支払い東京港まで運ぶ。
  • ただし、リスクは積込時に日本企業へ移るため、保険範囲が十分か確認が必要。

例③:中国顧客へ製品を配送(DAP条件)

  • 契約書:「DAP 上海市内倉庫、Incoterms 2020」
  • 日本企業が上海の倉庫まで輸送を手配。
  • ただし、中国での輸入通関は顧客(買主)が担当。

このようにインコタームズを使えば、取引条件が一目で分かりやすくなります。

実務でよくある落とし穴

取引条件が一目で分かるため、とても使いやすいインコタームズですが、活用の際に注意点もあります。

  • 「インコタームズで決めたから大丈夫」と思っていたら、保険の範囲が不十分で損失をカバーできなかった。
  • 「通関は相手がすると思っていた」と誤解して、港で荷物が止まってしまった。

インコタームズを入れるだけでは不十分なケースもあるので、契約書に補足条項を加えるのが安心です。

まとめ

ということで、今回は 契約書に関係するインコタームズの基本と実務での注意点を解説しました。
今回のお話 いかがでしたでしょうか?

インコタームズは、国際取引における費用とリスクの分担を明確にするルールです。
ICCに「加盟国」という概念はなく、中国を含めどの国でも利用できます。

ただし、インコタームズは万能ではなく、国内法や契約条項とセットで考えることが重要です。
実務では、所有権移転・通関・保険の範囲などを契約書にしっかり補足することがトラブル防止につながります。

これから海外ビジネスを考えている方にとっても、インコタームズを理解することは大きな武器になります。

当事務所では、契約書作成・チェックのほか、海外取引に関するご相談や各種許認可申請のサポートも行っています。
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